大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 昭和47年(わ)43号 判決 1973年5月02日

本籍

新潟市礎町通上一ノ町一、九二〇番地

住居

同市関屋浜松町一六〇番地

会社役員および旅館業

被告人

黒川伍男

昭和三年一二月二六日生

主たる事務所の所在地

新潟市礎町通上一ノ町一、九二〇番地

被告人

有限会社港不動産

右代表者代表取締役

黒川伍男

検察官

咄下吉男、 弁護人 川村正敏出席

主文

被告人黒川伍男を懲役八月および罰金四〇〇万円に処する。

被告人黒川伍男が右罰金を完納できないときは、金一万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

この判決の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

被告人有限会社港不動産を罰金八〇〇万円に処する。

理由

(犯罪事実)

第一  被告人黒川伍男は、会社役員等としての給与所得や、所有不動産の賃貸による所得のほか、妻黒川章子の名義で、新潟市女池桜木三、六三三の一番地に「旅荘白鳥」を、同市神道寺小鍋二二五番地で旅館「モーテル城」を経営して所得を得ていたのに、右各旅館より得られる収入を会計帳簿に記載しないことにして、所得税を免れようと企てた。

(一)  そこで、昭和四三年一月一日から同年一二月三一日までの昭和四三年分の被告人の所得金額は、右旅館の経営による事業所得一九、九五二、八九五円のほか、不動産所得七九六、八〇〇円、給与所得七八八、三七五円、総所得金額合計二一、五三八、〇七〇円であつて、これに対する所得税額は、一〇、一八二、〇〇〇円であるのに、昭和四四年三月一五日所轄の新潟税務署長に対し、所得金額は、不動産所得七九六、八〇〇円、給与所得七八八、三七五円だけであつて、総所得金額は合計一、五八五、一七五円に過ぎず、これに対する所得税額は、一六四、二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税額一〇、〇一七、八〇〇円をほ脱した。

(二)  昭和四四年一月一日から同年一二月三一日までの昭和四四年分の被告人の所得金額は、右旅館の経営による事業所得三二、八九六、八一七円、不動産所得八〇七、〇〇〇円、給与所得九〇八、〇〇〇円、総所得金額合計三四、六一一、八一七円であつて、これに対する所得税額は、一八、〇七一、一〇〇円であるのに、昭和四五年三月一六日所轄の新潟税務署長に対し所得金額は、不動産所得八〇七、〇〇〇円、給与所得九〇八、〇〇〇円だけであつて、総所得金額は合計一、七一五、〇〇〇円に過ぎず、これに対する所得税額は、二九三、二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税額一七、七七七、九〇〇円をほ脱した。

第二  被告人有限会社港不動産は、もと商号を有限会社礎不動産と称し、新潟市礎町通上一ノ町一、九二〇番地に主たる事務所を置いて、不動産の売買、仲介および貸金業を営むものであつて、昭和四五年三月一五日有限会社港不動産と商号を変更したものである。被告人黒川伍男は同会社の代表取締役としてその業務の全般を統括していたところ、同会社の業務に関して、法人税を免れようと企てた。

(一)  そこで、昭和四三年四月一日から同四四年三月三一日までの事業年度の右会社の所得金額は三二、四三四、九二二円であつて、これに対する法人税額は一一、一四一、九〇〇円であるのに、不動産取引については売上の一部を帳簿より除外し、貸金業については貸金の利息の一部を帳簿より除外するなどの方法により、所得の一部を秘匿し、昭和四四年五月三一日所轄の新潟税務署長に対し、所得金額は九九二、八七五円で、これに対する法人税額は二七七、七〇〇円である旨の、虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税額一〇、八六四、二〇〇円をほ脱した。

(二)  昭和四四年四月一日から同四五年三月三一日までの事業年度の右会社の所得金額は八一、〇〇二、三〇〇円であつて、これに対する法人税額は二八、一四〇、七〇〇円であるのに、不動産取引については売上の一部を帳簿より除外し、貸金業については貸金の利息の一部を帳簿より除外し、そのほか架空の経費を計上するなどの方法により、所得の一部を秘匿し、昭和四五年六月一日所轄の新潟税務署長に対し、所得金額は三三、〇一六、六二九円で、これに対する法人税額は一一、三四五、六〇〇円である旨の、虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税額一六、七九五、一〇〇円をほ脱した。

(証拠の標目)

判示第一の事実につき

一、大蔵事務官作成の証明書(所得税の確定申告書の写し添付のもの)四通

一、黒川章子、吉沢静子、布川学而(三通)、大橋貞夫(記録九一丁以下)、布川ハル、宮迫勇、古川清、阿部久徳柴野欽一、寒河江久紀の検察官に対する各供述調書

一、吉沢静子、大森勝治の検察事務官に対する各供述調書

一、布川学而(二通)、布川ハル、宮迫勇、古川清、阿部久徳、柴野欽一、寒河江久紀の各質問てん末書

一、千明芳徳、鈴木正、西坂鉄哉(記録二一三丁以下)作成の各供述書

一、石崎鉄也、北沢良助作成の各答申書

一、国税査察官作成の「預金入積と日計表との検討表」、「収入金額の調」、「昭和四三年度科目別経費調」、「昭和四四年度科目別経費調」と各題する書面

一、大蔵事務官作成の「脱税額計算書」(記録五丁、六丁)二通

一、押収してある昭和四三年白鳥決算書類(昭和四七年押第五七号の一)

一、同じく昭和四三年モーテル城決算書類(前同号の二)

一、同じく昭和四四年モーテル城、白鳥決算書類(前同号の三)

一、同じく昭和四三年白鳥、モーテル城月別損益計算書類(前同号の四)

一、被告人黒川伍男の検察官に対する供述調書(昭和四七年二月二二日付第一回のもの)

判示第二の事実につき

一、大蔵事務官作成の証明書(法人税の確定申告書の写し添付のもの)二通

一、大橋貞夫(記録五六八丁以下、二二九六丁以下)、白倉直士、高橋忠男、中山スズイ、野村松太、白井ミツ、松野ソミ、山田竹常、山下克典、川田福治、石井太市の検察官に対する各供述調書

一、成田五郎、山田敏雄、富井儀一郎、渡辺寅松(二通)、酒井清、斉藤 行、井上安雄、小林直一、中野信雄、福田陽子、川上稔、吉田照子、加藤友芳、江川勲夫、高橋野歩男、高橋由雄、森林太郎、古山茂、五十嵐逸郎、佐藤良雄、五十嵐春雄、加藤一郎(二通)、駒田順衛、若楓千枝子、遠藤幸雄、長谷川光雄、斎藤春吉、石倉キシ、羽田野敦子、内藤隆、中林吉蔵、中土由美子、清野つる子、西山照夫、黒川章子の検察事務官に対する各供述調書

一、朝妻昇吉、安沢達男、沢口隆一郎、伊藤高秋、片野香代、出塚助太郎(三通)、飯島進、岩崎忠三郎、今泉昇、石井太市(七通)、魚地武治、小野キヨ子(二通)、柄沢ナツ、金沢栄二、熊倉繁男、糀本一雄、古田雄太郎、坂井広静、佐々木栄二、酒井謙次、佐藤鉄太郎(四通)、篠田三郎、田中紫磨子、田巻孝次郎、高橋四郎、中西キヨミ、中林吉蔵、中野信雄、長井美雄枝(二通)、早見喜一郎、平原正三、長谷川吉春、飯山繁三、細川九十九、森林太郎、山崎延二、山崎スズイ、渡辺藤吉(三通)、内山広三、黒岩一男(二通)、井川九二衛、平原二太郎、渡辺市衛、高井太一、黒川恒男(二通)、古塩武男、新井一郎、奈良場哲郎、小川十郎、岡田茂雄、高野憲一、佐野嘉男、小林貢、斎藤浩意、高野留吉、江部平次郎、高野一男(二通)、井上安雄、伊藤敏雄、宮川幸子、土屋武、百浦トシ、丸山正弘、樋口恵二、岡スガ、伊藤利輔、金子金三郎、長谷川仁蔵、小形正一、吉川竹男、河井敏雄、遠藤幸雄(三通)、本間静江、坂爪豊次、下村武雄(二通)、近藤元次、内山福雄、三国三策、赤神英夫、原博、渡辺悟、音川英雄、横山恒二、深沢忠一、藤井正雄、渡辺雄司、松原真次(四通)、玉木隆二郎、安田スミノ、田代三郎、駒沢石太郎、成田征四郎、遠藤実、神保隆二、石倉キシ、佐藤仁三郎(二郎)、長沢一夫、伊藤義雄、村山トヨ、川田福治、早福助蔵、池信司、伏見勝也、本間茂、日野遼、五十嵐倭次、中沢春男、服部輝雄、栗川正男吉川一欧、中野正喜、渡辺二郎、東精一、大久保芳男(二通)、若杉今朗(二通)、山田辰三郎、上野源一、本間隆平、桜井春枝、駒沢昭平、漆間三代吉、大橋甲一、河上孝、湊良次、大野長衛(二通)、鈴木亮介、伊藤博、中村尚、井村恵之助、長谷川辰蔵、岩崎更生、丸山栄太郎(三通)、郷忠次、白川力夫、中川光一、石井康雄(二通)広瀬忠夫、村上平介、作成の各答申書

一、大橋貞夫の質問てん末書

一、西沢鉄哉(記録二一一四丁)、永井三六作成の各供述書

一、旗好助作成の報告書

一、野俣弥惣衛作成の申立書

一、国税査察官作成の「債務者別貸付金利子等明細」、「不動産取引台帳」、「礎不動産の反面調査について」、「証明書」(記録一一〇一丁以下)、「建築関係調査書類」「仲介手数料集計表」、「家賃合計表」、「駅前ガレージ関係取引について」、「北越分譲マンシヨン関係書類」「各税目別の徴収決定額と納付状況調」、「公租公課否認調査書」、「消耗品費調査調」「修繕費調査書」、「車輛関係調査書」、「借入金残高および支払利息調」「仲介手数料支払調査書」、「預金残高および受取利息調」、「給料手当調査書」、「通信費調査書」、「旅費交通費調査書」、「接待交際費調査書」「交際費調」とそれぞれ題する書面

一、新発田税務署長作成の「競売関係書類提出書」

一、検察事務官作成の「不動産売買契約書、領収書写の提出について」

一、新潟財務事務所長作成の「県税の納付状況の照会について(回答)」

一、新潟市長作成の「市税の納付状況について(回答)」と題する書面

一、被告人有限会社港不動産の登記簿謄本

一、検察官作成の報告書(記録五一八丁以下、五八五丁以下)

一、押収してある総勘定元帳三冊(昭和四七年押第五七号の五、六)

一、同じく貸付金台帳七冊(前同号の七ないし一〇)

一、同じく決算関係資料二冊(前同号の一一、一二)

一、同じく不動産取引台帳二冊(前同号の一三)

一、同じく東大通ガレージ使用料台帳一冊(前同号の一四)

一、被告人黒川伍男の検察官に対する供述調書(昭和四七年二月二二日付第二回のもの、同月二四日付、同月二五日付)三通

判示全体につき

一、被告人黒川伍男の当公判廷での供述

一、被告人黒川伍男の質問てん末書

(法令の適用)

一、被告人黒川伍男の判示第一の(一)、(二)の各行為、所得税法二三八条一項。懲役刑と罰金刑を併科する。

一、被告人黒川伍男の判示第二の(一)、(二)の各行為、法人税法一五九条一項。懲役刑と罰金刑を併科する。

一、被告人黒川伍男の判示四個の罪は、刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については、同法四七条本文、一〇条により、もつとも重い判示第一の(二)の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については、同法四八条二項により合算額以下で処断する。

一、被告人有限会社港不動産の判示第二の(一)、(二)の各行為は、法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当する。右二個の罪は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により、罰金の合算額以下で処断する。

(量刑の事情)

被告人黒川伍男は、脱税は誰でもやつていることだと考えて、所得税の関係では、モーテルの経理を担当している布川替而に、収入の約三割しか申告しないように指示し、そのため、昭和四三年度にはモーテルは赤字として申告させ、翌四四年度はごく僅かの黒字を計上したが、それを名義人の妻章子の名義で申告して、ほ脱をはかつた。その間布川は、料理飲食等消費税の関係でも過少申告をして、脱税の発覚を防いできた。

また法人税法の関係では、会社の経理を担当している大橋貞夫に、個々の取引につき「これは儲かつていない。」などと個別的に簿外に落す取引を指示した。そして貸金業による収入については約三割、不動産売却による収入については約六割しか申告しないできた。

そのほ脱した税額は、起訴された二年間のものだけで、五五、四五五、〇〇〇円の多額に上つており、ほ脱の方法もかなり計画的で悪質なものである。

しかし、被告人が潔く罪を認め、ほ脱税額や重加算税額を納付する準備をしているので、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤野豊)

右は謄本である

同日同庁

裁判所書記官 中野昭二郎

右は謄本である

昭和四八年五月二五日

新潟地方検察庁

検察事務官 相馬通雄

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例